はじめに

社会契約論について

『社会契約論』はまとまった書物ではなく、断片をもとにして構成されている。

この短い論文は、かつて自分の力のみきわめもつかない頃に執筆しようとして放りだしていた長い論文の抜粋である。この長い論文からは、さまざまな断片をとりだすことができたはずだが、次に掲げるものがもっとも重要で、世間に公開する価値があるものと思われた。残りの断片はもはや手元にも残っていない。

『社会契約論』の中心になっているのが、社会の基礎に関する研究だ。社会契約、立法、執行、国家の解体などがそれに当たる。社会契約と国家の解体の考察はほぼ完了しているようだが、それ以外についてはメモ段階にとどまっている。
社会契約論は四篇から成っているが、これは大雑把な区分でしかない。ルソーの当初の目論見では存在したであろう、

  • 第一編:社会契約
  • 第二編:立法
  • 第三編:執行

という枠組みだけはそのまま使い、断片を適当に投げ入れ、この分類に入らなかったものは第四編に投げ入れたようだ。

さらに、ルソーは体系的な法律を作るにあたっての準備的な考察、民主制、貴族制、王制の比較、古代ローマの研究といった、別個の意図で行われたであろう、独立の研究を穴埋めのために付け加えている。

  • 立法者、立法と人民、法の分類等の考察:第二編第八~一二章
  • 民主制、貴族制、王制の比較:第三編第二~九章
  • 古代ローマの研究:第四編第四章~八章

完成した著作ではないのに、なぜ『社会契約論』が歴史上生き残ってきたかというと、断片であっても事実の分析として鋭く、価値があるからだ。

本論文の構成

本論文では、社会の基礎の研究を中心に考察したい。上にあげた独立の研究については、基本的には扱わないことにする。
また、『社会契約論』の論述の順序にはあまりとらわれず、考察をする。
社会契約や一般意志のような、ルソーが完成させている箇所については、ルソーの理論のみに従って論述をするが、立法、執行、腐敗のような、断片的でルソー自身がまとまった理論まで昇華していない箇所については、私がそれを独自に補った上で論述をする。

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