PCの検索機能を利用

PCを用いて知的生産を行おうという試み自体は、以前からある。アウトラインプロセッサのような、それ専用のソフトは数多く存在するし、howmやChangeLogのように、エディタの拡張として実装したものもある。私は、その中で、テキスト形式でメモをためる方法を追求した。メモファイルが、特定のソフトでしか開けないものであった場合、後々そのメモが使えなくなることを恐れたからだ。

そこで期待したのは、PCの機能の有効活用である。例えば何か調べ物をしたい場合、Googleで適当な語を検索すれば、自分に必要な情報が乗っていそうなリンクがずらっと表示され、それをいくつか開けばたいていの場合、疑問は解決する。はてなやwikiを読んでいてよくわからない言葉があれば、その語のリンクをたどれば、その説明を見ることができる。ニコニコ動画で興味のある動画に出会ったら、それに付けられているタグをクリックすれば、関連する動画が羅列して表示される。このように、ネットにおいては、データが無数にあったとしても、そこから自分にとって有用な情報を、PC特有の機能で取得する方法が存在する。これを応用すれば、カードで試行錯誤していた「情報が増えることによるカオス化」など、容易に解決するのではないか、と思ったのだ。

移植

だがその前に、京大式カードと同じことをPC上でもできるようにする必要がある。エクスプローラーとメモ帳にしか触れたことが無く、「メモの中身を確認するために一々ファイルを開くのとか面倒じゃないの?」と思っている人がいるかもしれないので、ここで説明しておこう。

京大式カードでは、カードを「くる」という操作を行っていた。この操作は、カードのタイトルだけをざっと見ることで関係するものを見つけ出す操作と、カードの本文をざっと見ることで関係するものを見つけ出す操作の二つからなっている。これをPC上で実現するために必要になるのは

  • タイトル一覧表示
  • 連動ビュー

の二つである。前者が、「カードのタイトルを見る」に対応する。あるフォルダにメモファイルが入っているとして、各メモのタイトルが一覧表示される仕組みがあればいい。後者が、「カードの本文をざっと見る」に対応する。ファイルにカーソルをあわせれば、それと連動して、別ウィンドウでそのファイルの中身が表示されればいいわけだ。これを実現する方法は、TextTree、howm等いくつかある。これで、カードで実現していた「くる」操作は可能になる。

Grepによる関連メモの並列

そこで本題の「PCの機能を利用して、データベースから関連するメモを抜き出す」に移る。これの追求で、私は立ち止まった。

それには

  • Grepの利用
  • 関係するファイルに共通のタグを入れる
  • データ本体とは別に情報管理

の三つの方法がある。

まずはGrepについて話そう。Grepは、複数のテキストファイルを対象にして、特定の単語を検索するプログラムの名称である。これは、エディタの機能としてついていることが多い。また、Grepのみに特化したソフトも存在する。だが、Grepを利用して自分が知りたいテーマについての情報を並列するのは難しい。そもそもテーマに関係する単語が存在するのかという問題がある。また、たとえあったとしても、それによってメモの内から関連するものをすべて拾える保証がない。それに、この方法だと、どうしても関係ないメモがヒットしてしまう。

この方法は、Googleで調べものをした際の類推から、有効なものであると思われている。例えば何か調べものがあるとき、我々はGoogleで、それに関係していそうな単語を検索する。すると複数のサイトがヒットするので、それを上から順に開いていく。そうすれば、たいていは知りたいと思った情報に行き着くわけだ。

だが、Grepをかける対象が未完成なアイデアである点が、Google検索の状況と大きく異なっている。Google検索をかける対象は、完成したデータである。だから、ヒットしたリンクには、知りたい情報が載っている可能性が高い。しかし、その対象がアイデアメモの場合、ヒットするのは未完成な情報である。それ単体では無意味なものでしかなく、それをいくつ閲覧したところで知りたいことは書かれていない。さらにそれは、過去のものになればなるほど、それを書いた際の問題意識の忘却から、内容が理解できないものになる。それだけならまだしも、全く現在の問題と関係の無いメモまで同時にヒットしてしまうのだ。だから、Grepによって自分の求める情報が手に入る可能性は非常に低い。

関係するファイルに共通のタグを入れる

次にタグ付けについて。この場合、ファイル名検索でヒットするよう、次のようにタグをつけることになる。

  • 【タグ】ファイル名.txt

重要度を記号で表す場合も、原理的にはこれと同じである。例えば、ファイル名の末尾にスターをつける。

  • ファイル名☆☆☆.txt

このようにして、タグなり記号なり、共通の単語をファイル名に入れる。そうすれば、その単語でファイル名検索をした時、関連するファイルを一覧表示できるわけだ。

このときの問題点の一つは、持続性を持つタグをつけることができない、ということである。アイデアメモを作った当初は、それが何についてのアイデアかをカテゴライズできていない場合が大半である。それゆえ、現時点の判断で、将来までずっと通用するようなタグを付けることは、ほとんど不可能だろう。だからどうしても、おおざっぱなタグか、あるいはそのときにたまたま思いついたタグを付けることになる。

「おおざっぱなタグ」は、おおざっぱなゆえに役に立たない。そのときどきの問題関心は移り変わる故に、同じタグであっても、メモ同士の関連性は薄いものになる。メモを利用するには、自身の問題意識に則した細かな区分が必要になるのだ。

「そのときにたまたま思いついたタグ」は、持続性が無いゆえに役に立たない。ある日思いついたアイデアAに、思いつきで「ほげほげ」とタグを付けたとしよう。しかし、次にそのアイデアAと関連するアイデアBを思いついた時、「前に似たようなアイデア思いついたよな」ということは覚えていたとしても、それに付けたタグを正確に思い出すことができない。そうして、そのときたまたま思いついた、また別のタグを付けることになってしまう。しかし、タグで検索するからには、タグ名は正確に一致していなければならない。だから、このようにして付けたタグは無意味になる。

また、タグを付けても、重要度での区別をつけることができないという問題がある。メモの中には、他の複数のメモを参考にして書いた、完成度の高いメモと、ただ思いつきを書いただけの、完成度の低いメモが混在している。しかしそれらは、タグで検索した時、すべて同じように表示されてしまう。有用なメモが、他の雑多で低価値のメモの中に埋もれてしまうのである。同じタグを持つファイルが増えれば増えるほど、この事態は顕著になる。結局、カードボックスの中で、有用なカードが大量の他のカードに埋もれて死んだのと同じように、同じタグを持つメモファイルの中で、有用なメモファイルが死んでしまうことになる。

データ本体とは別に情報管理

次に「メモデータ本体とは別に情報管理」について。カード型データベースソフトを使い、一つのデータに対し一つの蔵書カードを作成。検索その他はこの蔵書カードを利用して行う。気になって調べはしたが、適当なカード型データベースソフトを見つけられなかったという理由であきらめる。

そして破綻へ

結局、メモをデータベース化してPC特有の機能で操作する、という試みは破綻した。結果、最近のメモのみを一覧表示し、関係するメモをいくつか見比べる、という操作のみをすることになった。これは、最近作成したメモ以外はあってもなくてもいいということ、すなわち過去のメモ作成にかけた労力が無駄になったということを意味する。死蔵というカードと同じ問題が、ここでも生じたわけだ。

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