感情への従属

概要

第四部で最初に考察されるのが、「人間の無力および一貫性のなさの原因、ならびに人間が理性の命令に従わないことの原因」についてだ1。一般に、人間は理性という力を持ち、それによって感情を絶対的に制御できるとされる。だが、実際にそれを実現している人は稀だ。大抵の者は、感情に振り回され、不利益な行為をしている。その理由について、スピノザはここで分析するわけだ。

感情への従属

第三部を既に理解している者であれば、人間が感情に従属する理由がわかるはずだ。我々が感情に従属するのは、周囲の個物について、非妥当な観念しか持っていないからである。これらの個物は、我々を様々な感情に刺激する。あるときはねたみに、あるときは怒りに、またあるときは憐憫に、といったように。これらの感情に従ってなされる行為は、自己にとって不適切なものになるわけだ。
外的な個物に対する感情は、その個物について妥当な観念を持てば解消する。だが、いくら妥当な観念を持とうと努めても、それが実現しないことは多々ある。例えば、誰かが不当な行為をしてきた場合、それに対して全く怒らないでいることは難しいわけだ。我々が妥当な認識を持てるか否かは、他の個物との相対的な関係によって決まる。そして、力及ばず他の個物に圧倒され、特定の感情に執拗につきまとわれる事態もありうるのである2


  1. 定理一~定理一八の範囲 

  2. ある受動ないし感情の力は人間のその他の働きないし能力を凌駕することができ、かくてそのような感情は執拗に人間につきまとうことになる。(定理六) 

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